終わらない庭のアーカイブ

Graphic,Web,System,Art Project

2021

庭園アーカイヴ・プロジェクトは、現代のテクノロジーを駆使して、日本庭園の多様な側面をデータ化した新しい総合的アーカイヴを研究開発するものです。KARAPPOでは、同プロジェクトによる日本庭園のデジタルアーカイブ・システム「終わらない庭のアーカイブ – Incomplete Niwa Archives」の、UIディレクション、デザイン、開発及び、YCAM(山口情報芸術センター)におけるこの取り組みの展示のアートディレクション、ハンドアウトやウェブ、サインなどのコミュニケーションデザインを担当しました。

https://niwa.ycam.jp/

庭は、つくられた時点が完成ではなく、時の流れともに人の手や生物、季節の移り変わりなど様々な要因によって、常に変化し続けるものです。そういった性質を持つ庭を記録するとはどういうことなのか?このプロジェクトでは、従来のテキストや図面、絵画、写真、映像などによるアーカイブ方法に加え、実空間の3Dスキャンや3D録音、生物のDNA解析にいたるまで、現代になって可能となった技術も駆使することで、庭が持つ多面性や動態も含めて総合的に捉えることを試みています。庭が変化をし続ける以上、その全てを記録することは不可能な挑戦でもありますが、アーカイブをしていくなかで庭とは何かということを改めて問い直していくプロジェクトとなっています。

デジタルアーカイブは、3Dスキャンされた日本庭園の中に、収集した様々なデータをプロットしていく構造とし、その中を閲覧者が自由に回遊できるようにしたものとなっています。プロットされた各データは、要素ごとに色分けされ、クリックするとその詳細を見ることができます。キーボードやマウスを使用し、ゲーム感覚でこの3D空間を移動できるようにすることで、興味の赴くままに対象に近づいたり、あるいは俯瞰してみたりと、閲覧者が庭を自由に「眺める」ことができるようになっています。UIデザインとしては、遠くにある情報は点のみで示し、プロットされた地点に近づくに連れ、情報の名称が現れたり、サムネイル画像が表示されたりと詳しい情報が表示される仕組みとすることで、大量に情報がプロットされても破綻しにくいように設計しています。

3D空間にプロットされている情報は、古写真、庭の図面、高解像写真、定点映像、石、動植物、人工物、DNAデータ、各種専門家による庭の解説動画(オーラルアーカイブ)などがあります。同じ場所に立って、庭を見たとしても、人によって認知するものは異なってきます。また、時間が違えば、空の明るさも異なり、季節が違えば、植物の様子も変わり、現れる昆虫の種類も変わっていきます。そういったことが、積み重ねられたデータを見ていくことで、感じられるようになっています。インターフェースとしては、情報の表示は、画面右側から出てくるドロワーに全てまとめ、左側に3D空間を残して閲覧できるレイアウトで統一し、UIデザインに一貫性を持たせました。

各種専門家による庭の解説動画(オーラルアーカイブ)は、庭師や樹木医、岩石や動物の専門家など、様々な分野の専門家の方がその人の専門性で庭のことを解説しながら歩く動画になっているのですが、専門家の方の移動に合わせ、3D空間上を自動的に移動するような仕組みにすることで、3D空間の中を専門家の方と一緒に移動しているような感覚で閲覧できるように工夫しました。

ツアーモードという、自分で操作をしなくても自動で庭を閲覧する仕組みも、2種類用意しています。Guided Tourは、その庭の主だった要素を順に見ていけるダイジェストのようなツアーモードです。Ramble Tourは、まるで散歩をするように、庭の中をウロウロと動き続けるモードです。ぼーっと何も考えずに庭を眺めることも、庭に訪れることのひとつの楽しみですが、そういった気分で庭を見ることができるのも面白いのではないか、そういう考え方でこの機能は実装されました。

展覧会のグラフィックも担当し、サインや、ハンドアウトなどをデザインしました。ハンドアウトは、2つ折りとし、ウェブ上でも見ることができるデジタルアーカイブのURLが埋め込まれたQRコードを大きくレイアウトし、展示だけにとどまらないものであることを分かりやすく伝えられるよう配慮しつつ、それがレイアウト的にもアクセントになるようにデザインしました。

本プロジェクトは、研究として実施されたもので、このプロジェクトの報告書のデザインも担当しました。システム開発や、展示も含めたプロジェクトであったことから、写真や図などをダイナミックにレイアウトした、読みたくなる報告書のデザインを目指しました。

本プロジェクトについては、庭園アーカイブ・プロジェクトの代表者である原瑠璃彦さんが書籍「日本庭園をめぐる: デジタル・アーカイヴの可能性 (ハヤカワ新書 008)」に詳しく書かれています。興味のある方は是非ご一読ください。

Client:庭園アーカイヴ・プロジェクト(原瑠璃彦 + YCAM)


UI Direction, Art Direction, Design:三尾康明

Technical Direction, Management, Development:寺田直和

Design:斉藤真弥子

展覧会・記録写真
撮影:山中慎太郎(Qsyum!)
提供:山口情報芸術センター[YCAM]

庭園アーカイヴ・プロジェクト:

原瑠璃彦(静岡大学)、伊藤隆之(YCAM)、高原文江(YCAM)、
津田和俊(YCAM、京都工芸繊維大学)、城一裕(九州大学、YCAM)

3Dスキャン・点群編集 :
井上智博(京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab)、津田和俊(YCAM、京都工芸繊維大学)

常栄寺庭園 3Dスキャン 協力:石井栄一、西本文博
無鄰菴庭園 3Dスキャン 協力:孫夢(京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab)

サウンド・レコーディング:伊藤隆之(YCAM)
常栄寺庭園 
サウンド・レコーディング 協力:中上淳二(YCAM InterLab)、石井栄一

音響認識システム開発 :城一裕(九州大学、YCAM)、安齋励應(東京藝術大学)、岡﨑圭佑(慶應義塾大学)

オーラル・アーカイヴ:
伊藤尚吾(有限会社伊藤造園 代表取締役社長)、田中浩(山口博物館 動物学部門学芸員)、矢野等(共立地下工業株式会社)、藤原俊廣(樹木医)

生物調査:津田和俊(YCAM、京都工芸繊維大学)、高原文江(YCAM)

生物種同定 協力(動画):田中浩(山口博物館 動物学部門学芸員)

生物種同定 協力(録音):川原康寛(萩博物館)

画像提供:宗教法人 常栄寺、マツノ書店、
山口県文書館映像
データ整理:石井栄一

権利処理:木村英恵

テクニカルサポート:三浦陽平(YCAM)、正分あゆみ(YCAM)